「丸ノ内サディスティック」という楽曲の真に恐ろしい点は、時代とともにその姿を自在に変容させながら、常に最先端の輝きを失わない適応力にあります。その実験の主戦場となったのが、椎名林檎が率いるバンド・東京事変のステージでした。
初期のキーボーディストであるH是都M(H ZETT M)が在籍した『Dynamite out!』では、狂気じみたアクロバティックな鍵盤プレイが炸裂し、楽曲はパンキッシュなスウィングへと変貌を遂げました。さらに伊澤一葉の加入後は、より洗練されたネオソウルやジャズファンクのアプローチが導入され、『ウルトラC』や『Bon Voyage』などのツアーにおいて、イントロの数音だけで会場全体が地鳴りのような歓声に包まれる絶対的アンセムへと磨き上げられていきました。
また、セルフカバーアルバムや企画盤で披露された英語詞バージョン(Expo Ver.など)の存在も見逃せません。「リッケン620頂戴」という日本語の響きを活かしながら、「Pay check(給料)」などの英単語をリズミカルに配置。母音の口の開き方やアタック感を完全に一致させる作詞技巧は、言語の壁を超えた快楽原則をリスナーに提示しました。
さらにカバー歴代まとめを眺めれば、宇多田ヒカルが2002年のステージやプライベートな親交のなかでリスペクトを示したことを皮切りに、木村カエラ、絢香、島爺、森内寛樹、さらには多くのジャズトリオやVTuberに至るまで、世代とジャンルの垣根を軽々と越えて歌い継がれています。どのようなアプローチで料理しても崩れないメロディの骨格こそが、この曲がスタンダードたる最大の証拠です。