名著『昭和16年夏の敗戦』検証|総力戦研究所の敗戦予測と開戦の真相

名著『昭和16年夏の敗戦』検証|総力戦研究所の敗戦予測と開戦の真相

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総力戦研究所の模擬内閣が昭和16年8月半ばに最終報告としてまとめた総力戦研究所 シミュレーションの結果は、後の歴史を正確にトレースしたかのごとき恐るべき精度を誇っていました。研究員たちが導き出した対米戦の展開シナリオは、以下の段階を経て進行すると結論づけられていたのです。

第一に、開戦初期において日本軍は南方資源地帯(石油の産地である蘭印・現在のインドネシアなど)を迅速に占領し、一時的な軍事的優位を確立します。しかし、第二段階においてアメリカの圧倒的な工業生産力が本格稼働すると、通商破壊戦(潜水艦や航空機による輸送船への攻撃)が激化。日本が南方から本土へ原油やボーキサイトを輸送するための商船は次々に撃沈され、造船能力をはるかに上回るペースで船舶が失われていきます。

そして第三段階、開戦から約1年半から2年が経過する1943年半ば以降、日本国内の石油備蓄は完全に底をつき、製鉄所や工場群は稼働を停止、戦闘機を飛ばす燃料すら喪失します。最終的に本土空襲を受け、さらに北方のソ連が不可侵条約を破棄して参戦することで、日本は無条件降伏へと追い込まれる――。この筋書きは、1945年8月の敗戦の構図そのものでした。

当時、研究所の模擬内閣で閣僚役を務めたメンバーの一人は、後年の回想録やオーラルヒストリー取材において、「数字を突き詰めていけばいくほど、どこをどう捻じ曲げても敗北以外の結末が見出せなかった。部屋の中が重苦しい沈黙に包まれた瞬間を今でも忘れられない」と述懐しています。オカルトや神風の介入を排した純粋な科学的演算の前では、大日本帝国の命運は開戦前からすでに尽きていたのです。

山本 拓海
著者

山本 拓海

デジタルガジェットとスマート家電の検証記事を多数執筆。失敗しないモノ選びを提案します。