物語のクライマックス、海の母であるグランマンマーレは、宗介に対して極めて重大な問いを投げかけます。それは「魚のポニョも、半魚人のポニョも、人間のポニョも、すべてを受け入れ、好きでいられるか」という試練でした。
この場面は一見すると無垢な幼児同士の微笑ましい誓いに映りますが、アンデルセン童話『人魚姫』を原案とする本作の構造において、極めて冷徹な契約関係が成立しています。ポニョが人間になるためには、宗介がポニョの正体(異形であること)を完全に受け入れなければならず、もし宗介の心が将来少しでも揺らげば、ポニョは海の泡となって消滅し、狂った世界の均衡も元には戻らないという過酷なペナルティが課されているのです。
5歳という極めて純粋な年齢設定の宗介だからこそ、恐れや打算なく「どんなポニョも好き」と即答できました。しかし、宮崎駿監督はこの試練を通じて「他者をありのまま受け入れる覚悟」という、大人が一生をかけて直面する重い命題を幼い少年に託しています。