膝が笑う。息が上がる。それでも一歩、また一歩と足前を運んでしまう。
御本宮までの785段、さらに奥社までの1,368段。数字だけを見れば躊躇するほどの急坂だ。しかし、この参道を歩くこと自体が、日常のノイズを削ぎ落とす一種のマインドフルネスとして機能している。参道両脇に立ち並ぶ老舗のお土産店やカフェから漂う炙り煎餅の香ばしい匂い、歴史ある灯籠の影。それらが疲れを忘れさせる巧妙な演出となっている。
「階段を上りきった瞬間の達成感と、眼下に広がる讃岐平野の解放感は唯一無二です」。東京から訪れた30代の女性旅行者は、息を整えながらそう笑顔を見せた。タイパ(タイムパフォーマンス)が叫ばれる2026年の現代において、あえて「時間と体力をかける体験」に価値を見出す若年層が急増しているのは興味深い現象だ。