『古畑任三郎』における木村拓哉出演回を語る上で、絶対に外せないのが古畑による“平手打ち”の場面だ。犯人を追い詰める際、めったに手を出さないことで知られる古畑任三郎が、冷酷かつ生意気な態度を崩さない若き犯人の頬を力強く張る——。このショッキングな演出は、当時の視聴者に強烈なインパクトを与えた。
のちに明かされたエピソードによれば、あのビンタは台本上でのニュアンスを超え、田村正和さんが現場の空気感から生み出した必然の演技だったという。生意気で頭脳明晰な若者に対する古畑の「怒り」と「教育」、そして何より「犯人としてではなく一人の人間として向き合う」という田村さんの覚悟が、あの瞬間に凝縮されていた。木村自身も後年のラジオやインタビューで「あの手ぶくろの感触と痛さは今でも忘れられない。正和さんに本気でぶつかってもらえたことが、役者としての大きな転機になった」と述懐している。