ネット上の情報やSNSの投稿において、水月に関してしばしば散見される二大誤解があります。それが「水炊き=白濁スープが正統であるという思い込み」と、「予約が取れないのは一見客お断りだからというデマ」です。
第一に、福岡の水炊きといえば、箸が立つほど濃厚な白濁スープを想起する旅行者が少なくありません。しかし歴史的事実を検証すると、白濁水炊きは後発の店舗群が昭和期以降に大衆向け・差別化のために定着させたスタイルです。水月が貫く清湯スープこそが「水炊き」という料理のオリジンであり、鶏ガラを強火で叩き割って骨髄を溶け出させるのではなく、肉と骨から丁寧に澄んだエキスだけを抽出する調理法こそが元祖の流儀です。「白濁していないから薄いのでは」という先入観は完全な誤認であり、実際には一口飲むだけで鶏の濃厚なコラーゲンとアミノ酸が舌を包み込みます。
第二に、「何度電話しても満席で予約が取れない」という現象の背景についてです。これを「常連優先の閉鎖的な体質」と邪推する言説がありますが、現場のオペレーション構造を知れば理由は極めて合理的です。水月では、すべての中居さんが一鍋ずつ付き添い、肉の煮え加減や灰汁取り、スープを注ぐタイミングを完璧に管理しています。
つまり、物理的な座席数があっても、「質の高いもてなしを提供できる仲居の人数」がその日の受入上限枠となります。むやみに回転数を上げず、1組に対して2時間以上のゆったりとした時間を確保しているため、特に紅葉シーズンや年末年始、連休、学会開催時などは1〜2ヶ月前の受付開始直後に枠が埋まってしまうのが真相です。決して一見客を排除しているわけではなく、品質維持のための定員制限であることが取材から明らかになっています。