人間は1日に約2万回もの呼吸を行っています。息を吸い込む際には横隔膜が下がり、外肋間筋が収縮して胸郭(肋骨や胸骨、胸椎で構成されるカゴ状の骨格)が大きく持ち上がります。この一連の拡張運動によって背中側の筋肉、関節、神経、さらには内臓を包む膜組織にまで物理的なテンションがかかります。そのため、息を吸うと背中が痛い原因と理由を突き詰めるには、「胸郭の骨格・筋肉トラブル」なのか「内部臓器からの関連痛」なのかを明確に切り分ける必要があります。
一般的な筋肉疲労や筋膜炎であれば、痛む箇所を押圧(指で強く押す)した際に明確な圧痛点が存在し、「体を曲げた時やひねった時」に症状が増悪します。一方で、深呼吸によってのみ痛みが誘発され、表面を押しても痛みが変化しない、あるいは安静にしていても奥深くがズキズキと疼くような感覚がある場合は、胸郭内部の疾患を疑わなければなりません。
特に深呼吸 背中の痛み 危険な病気として警戒すべきは、肺を包む胸膜の炎症(胸膜炎)や肺に穴が開く気胸、さらには心筋梗塞や解離性大動脈瘤です。肺自体には痛みを感じる知覚神経が存在しませんが、肺を覆う「壁側胸膜」には痛覚神経が張り巡らされており、深呼吸によって肺が膨らみ壁側胸膜と摩擦を起こすことで、背部や側胸部に電撃的な痛みが走ります。この生理現象を見誤り、「単なる筋肉痛」として数日間放置した結果、救急搬送時に危機的状況へ陥る事例が後を絶ちません。