漫画の実写映画化において、原作キャラクターのビジュアルや空気感を損なわずに立体化することは至難の業とされます。特に末次由紀氏による原作『ちはやふる』の若宮詩暢は、かるた界の絶対王者としての孤高の美しさと、独特のアンニュイな雰囲気、さらには京都弁の優美さと冷酷さを併せ持つ、再現難易度が極めて高い人気キャラクターでした。
映画『下の句』で初登場を果たした松岡茉優の姿は、そうした懸念を一瞬で払拭しました。黒髪の艶やかなボブヘアに凛とした着物姿、対戦相手を見据える射抜くような視線。札を払う際の一瞬の静寂と爆発的なスピード感は、まさに「実写版クイーンそのもの」と称賛されました。単に外見を似せるにとどまらず、詩暢が抱える「誰とも本気でかるたを取れない孤独」や「かるたの札そのものを友達のように慈しむ狂気的な愛着」を、微細な表情の変化と息遣いで表現しきったのです。
映画公開当時、映画評論家や試写を観た関係者の間では「松岡茉優の登場によって作品の重厚感が一段引き上げられた」との評価が相次ぎました。映画賞の助演女優賞レースでも存在感を示し、若手演技派としての地位を不動のものにした決定的な役柄となりました。