かつてスポーツカーの専売特許だったDOHCが、現代のファミリーカーや大衆車に至るまで全面採用されるようになった背景には、環境性能への要求水準の引き上げがあります。DOHCが現在主流になった経緯は、単純なパワー競争ではなく、吸気と排気のバルブ開閉タイミングを個別にミリ秒単位で調整するVTECと可変バルブタイミング機構(VVTやVTCなど)の進化と密接に関係しています。
排出ガス浄化と熱効率の極限追求が課される中、排気バルブと吸気バルブを独立制御できるDOHCは、燃焼室内の内部EGR(排ガス再循環)制御やアトキンソンサイクル化において圧倒的な優位性を確立しました。ホンダのVTECのように、かつては高回転時の爆発的パワーを生み出すために用いられた技術が、現在では超低燃費とクリーンな排気ガスを実現するための必須技術へと転換したのです。
一方で、2010年代初頭までスズキ(F6AやK6A型SOHC)やダイハツ(EF型)、ホンダの軽商用車などで長らく採用されていた軽自動車のSOHC採用理由は、極めて実利的なものでした。狭小な軽自動車のエンジンルームにおいて、シリンダーヘッドが小さく軽量なSOHCはスペース効率と車両重量の低減に大きく貢献しました。加えて、発進加速で重要となる極低回転トルクの太さと、商用車に求められる過酷な耐久性・低整備コストという要求に完璧に合致していたからです。