「Isn't She Lovely」のコード進行が放つ唯一無二の多幸感と洗練された空気感には、明確な音楽理論的根拠が存在します。多くのポップスがトニック(主和音)から素直に開始するのに対し、本楽曲はトニックの安定を避け、いきなり哀愁を帯びたマイナーコードから物語を紡ぎ出します。
スティーヴィー・ワンダー 原曲キーは「Key of E」です。主調がEメジャーでありながら、楽曲の冒頭に配置されているのは6番目の和音であるC#m7(vi)。ここから生み出される切なさと期待感が、リスナーの耳を一瞬で惹きつけます。
最大の特徴は、2小節目に登場するF#7(II7)の存在です。ダイアトニックコード(調性内の自然な和音)に従えば本来は「F#m7」となるべき箇所に、長3度(メジャーサード)の音を含むドミナントセブンスコード(二次ドミナント=Secondary Dominant)が差し込まれています。この和音に含まれる「A#」の音が、楽曲全体に抜けるような明るさと都会的な浮遊感を劇的にもたらしています。
さらに、楽曲後半の展開も見事というほかありません。ダイアトニックのサブドミナントであるAmaj7(IVmaj7)へと抜けた直後、G#7(III7)が鳴り響きます。これも本来の「G#m7」をドミナント化させた二次ドミナントであり、強烈な引力で再び冒頭のC#m7へと回帰させます。このツーファイブ進行アナライズを紐解くと、以下の構造が浮かび上がります。
【Isn't She Lovely コード進行解説(機能和声の視点)】
前半:| C#m7 (vi) | F#7 (II7) | B7sus4 - B7 (V7) | E (I) |
後半:| Amaj7 (IV) | G#7 (III7) | C#m7 (vi) - F#7 (II7) | B7 (V7) | E (I) |
緻密なドミナントモーションの連続でありながら、メロディはペンタトニックスケールを主軸に設計されているため、難解さを一切感じさせず、誰の心にもスッと溶け込むポピュラリティを獲得しています。