世間にはいまだ「痩せすぎているのは偏食や自己管理の甘さ」「たくさん食べれば元に戻る」という短絡的な誤解が根強く残っています。しかし、重度の痩せをもたらす中核疾患である神経性やせ症(拒食症)は、精神医学的に極めて致死率の高い脳の機能異常を伴う病態です。
拒食症による見た目の変化は、単に肉が落ちるだけではありません。低栄養状態に適応しようとする身体反応として、体温を保つための産毛(毳毛:ぜいもう)が背中や腕に濃く生えたり、唾液腺が過剰に腫れて顔の輪郭だけが異様に角ばったりする特有の症候が現れます。また、爪の割れ、皮膚の黄疸様変色、歯のエナメル質融解など、全身の退行変性が容貌を大きく変貌させます。
当事者を最も苦しめる摂食障害の症状が「身体像障害(ボディ・イメージの歪み)」です。体重計の数値が30kg台前半まで落ち込み、客観的にはあばら骨が透けて見える状態であっても、本人は鏡の中の自分の下腹部や太ももを指して「まだ脂肪がついている、太っていて醜い」と本気で恐怖します。この認知の歪みは本人の意思や気合いで修正できるものではなく、前頭葉や島皮質を中心とした脳内ネットワークの機能不全によるものと近年の脳画像研究でも指摘されています。