ネット上の感想やSNSのライト層の間では、時折「戸愚呂弟は仲間を平気で殺す冷血漢」「非情な暴力の信奉者」と短絡的に語られることがあります。しかし、作中の詳細な言動や描写を丹念に検証すると、その人物像がまったく異なることが浮かび上がってきます。
第一に、弟は信条として理不尽な殺戮を嫌っていました。BBC(ブラック・ブック・クラブ)の富豪連中が金と権力に飽かして命を弄ぶ姿を心底軽蔑しており、雇い主であった垂金権造に対しても、契約外の残虐行為には冷ややかな視線を向け、最終的には容赦なく首をへし折っています。また、大会会場のバーで注文した有名な「酒はダメなんで オレンジジュースください」という台詞に象徴されるように、自己管理を徹底する求道者としての規律を保ち続けていました。
さらに、チームメンバーである鴉や武威に対する接し方にも独自の倫理観が表れています。かつて自分に敗れ、復讐の機会を虎視眈々と狙う2人を側におきながら、弟は決して不意打ちを恐れず、対等な強者として尊重していました。「殺されそうになっても殺意を失わず、命を狙い続ける奴が好きだ」と語る一方で、弟は卑屈な命乞いや他者を盾にする行為を最も嫌悪していたのです。
数々の名言――「お前もしかして まだ自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」「誰かのために100%の力を出す…それがお前たちの強さだな」という言葉は、他者を脅すための言葉ではなく、他ならぬ自分自身に向けられた痛烈な皮肉であり、自分には二度と手に入らない「正しき強さ」への憧憬でした。彼は悪に染まりきった怪物ではなく、悪を演じきることでしか自らを罰せられなかった不器用な人間だったのです。