Matt氏の本名は桑田将司(くわた・まさし)。1994年7月18日生まれの彼は、偉大な父の背中を見て育ち、小学校時代は周囲の期待通り野球チームに所属していました。名投手の息子としての資質は十分で、周囲もまた彼が甲子園を目指すものと信じて疑いませんでした。
転機が訪れたのは7歳の時でした。当時、右肘の手術を受け過酷なリハビリに励んでいた桑田真澄氏が、指先の感覚維持と機能回復のために自宅でピアノを弾き始めたのです。父が奏でる旋律を間近で聴いた少年・将司は、白球ではなく鍵盤とバイオリンの音色に心を奪われました。
中学生に進学するタイミングで、将司少年は父に「野球をやめて音楽に専念したい」と打ち明けます。一般的な元トップアスリートの父親であれば、「せめて高校までは続けろ」と引き止める場面かもしれません。しかし、桑田真澄氏の返答は極めてシンプルでした。「自分の人生なんだから、自分が一番好きな道を選びなさい」。父のこの一言が、後のアーティスト・Matt Roseの原点となりました。
その後、桜美林大学芸術文化学群音楽専修へと進学した彼は、ピアノや声楽、サックスの腕を磨き、本格的な音楽の素養を身につけます。野球という巨大な看板を捨て、音楽という自らの情熱に従った決断を父親が全肯定したからこそ、今日の表現者としての開花があったのです。