グリストラップの内部は、油分や調理くず、有機汚泥が日常的に蓄積し、嫌気性細菌が繁殖する絶好の環境となっている。蓋を開けた瞬間に充満する毒ガスの正体、それが硫化水素だ。卵の腐敗臭に似た独特の臭気が特徴だが、高濃度になると嗅覚神経が麻痺し、臭いすら感じなくなる。呼吸を一回吸い込んだだけで意識を失い、その場に倒れ込む「ノックダウン現象」が起きるため、自力での脱出はほぼ不可能だ。
同時に警戒すべきが、酸素欠乏症である。密閉された地下や換気が不十分な厨房下では、汚泥の酸化反応によって空気中の酸素が著しく消費される。酸素濃度が16%以下に低下すると脈拍増加やめまいが起き、6%以下では一回呼吸しただけで即座に心停止・呼吸停止に至る。厚生労働省が運営する「職場のあんぜんサイト」に記録された過去の事案を紐解いても、清掃中の不注意による硫化水素中毒と酸素欠乏が重複して発症した事例が後を絶たない。