権利侵害に直面した土地所有者が最も陥りやすい落とし穴が「自力救済の禁止」です。インターネット上の掲示板やSNSでは「自分の土地なのだから、勝手に置かれた車や荷物は即座にスクラップ工場へ運んで処分しても問題ない」といった無責任な言説が散見されます。
日本の法制度において、司法手続きを経ずに実力を行使して妨害を排除する行為は原則として違法です。無断放置された車両を勝手にレッカー移動したり解体処分したりした場合、逆に器物損壊罪や不法行為に基づく損害賠償責任を追及される重大なリスクを背負います。適法に対処するためには、相手方の特定、内容証明郵便による撤去催告、そして妨害排除請求訴訟および強制執行の申し立てという適正手続きを踏まなければなりません。
もう一つの重大な盲点が妨害排除請求権の消滅時効と「取得時効」の力学です。所有権そのものに基づく物権的請求権は、時の経過によって消滅することはありません。しかし、隣人による土地の一部占有を「波風を立てたくないから」と放置し続けた場合、相手方に20年(善意無過失なら10年)の占有継続による取得時効が成立してしまう危険性があります。所有権自体を時効取得によって失えば、当然ながら妨害排除請求権も行使できなくなります。