シングル曲の華々しい成功の裏で、アルバムの中にひっそりと収められたディープな楽曲にこそユーミンの本質が宿っていると語るファンは少なくありません。
隠れた名曲の筆頭として挙げられるのが、アルバム『MISSLIM』収録の『海を見ていた午後』です。横浜・山手のカフェ「ドルフィン」から見える根岸湾の風景を切り取ったこの曲は、具体的な地名を用いながら聴き手自身の記憶を呼び起こすシネマティックな筆致が極まっています。
パイプオルガンの荘厳な響きで別れの痛切さを描いた『翳りゆく部屋』や、ラグビーの熱戦と敗者へのリスペクトを歌った『ノーサイド』、新幹線の終電間際の情景を鮮やかに描写した『シンデレラ・エクスプレス』など、情景描写の巧みさは唯一無二です。
また、松任谷由実はペンネーム「呉田軽穂(くれかるほ)」名義で、他アーティストへ数々の大ヒット曲を提供してきました。中でも松田聖子に提供した『赤いスイートピー』『渚のバルコニー』『秘密の花園』『瞳はダイアモンド』『Rock'n Rouge』の一連の楽曲群は、80年代アイドル歌謡のクオリティを芸術の域まで引き上げました。