1930年、アメリカの天文学者クライド・トンボーによって発見された冥王星は、太陽系第9番目の惑星として世界中で親しまれてきた。ディズニーの人気キャラクターのモチーフに採用されるなど大衆的な人気を誇っていた星が、発見から76年後の2006年8月24日、突如として惑星リストから除外される事態となった。この決定的な引き金となったのが、観測精度の向上に伴う「エッジワース・カイパーベルト」における氷天体の相次ぐ発見である。
発見当初、冥王星は地球と同等以上の大きさを持つ巨大天体と推定されていた。しかし、観測技術が急速に発展した20世紀後半、衛星カロンの発見などを通じて実際の質量と体積が判明するにつれ、その実態は「月よりも小さく、地球のわずか6分の1程度の直径(約2,376km)」という極小の天体であることが露呈した。
学界に決定的な衝撃を与えたのが、2005年にカリフォルニア工科大学のマイク・ブラウン教授らの研究チームが発見した天体「エリス(2003 UB313)」だった。エリスは冥王星とほぼ同等、当時の測定では冥王星よりわずかに質量が大きいと見積もられた。この発見は天文学者たちに重い選択を突きつけた。「エリスを第10惑星として認めるか、それとも冥王星自体の位置づけを見直すか」という二者択一である。
当時、海王星の軌道外にはエリスや冥王星と似た性質を持つ天体が無数に存在することが判明しつつあった。もし冥王星を惑星と呼び続けるならば、将来的に惑星の数が数十個、数百個へと無限に膨れ上がり、太陽系の全体像を捉える科学的分類が形骸化してしまう。国際天文学連合の専門家委員会は、天文学の秩序を守るために「惑星とは何か」という根源的な問いに決着をつけることを迫られたのである。