『ダイヤのA』という作品の屋台骨を支えたのは、紛れもなくクリスと沢村栄純の師弟関係でした。地方から鳴り物入りではなく青道に入学した粗削りなサウスポー・沢村にとって、当初クリスは「冷淡でやる気のない上級生」に見えていました。しかし、その無愛想な態度の裏に、誰よりもチームを俯瞰し、痛みに耐えながらデータを分析し続ける不屈の執念があることを知った瞬間から、二人の運命は劇的に交差します。
クリスが沢村に授けたのは、単なるピッチングフォームの指導に留まりません。ムービングボールという特異な資質を殺さず、安定したリリースポイントを生み出すための「壁」の意識、そして打者と対峙する配球の妙味でした。ノートにびっしりと書き込まれた練習メニューと投球術は、知識の乏しかった沢村に捕手という相棒の重要性を骨の髄まで叩き込むことになります。
読者の涙腺を崩壊させた屈指の名場面が、クリスの高校野球最後のグラウンドとなった二軍戦(黒士館高校との練習試合)による引退試合です。すでに夏の甲子園予選ベンチ入りメンバー選考のタイムリミットが迫る中、片岡鉄心監督はクリスを正捕手として先発マスクに据えました。肩の痛みを克服し、沢村の荒れ球を完璧にコントロールして勝利をもぎ取った試合後、クリスが沢村に向けて放った「お前のボールは…誰よりも受けてきた」という名言は、スポーツ漫画史に刻まれる魂の交感でした。
公式大会の登録枠から外れ、一軍スコアラー・記録員としてチームを支え続けたクリス。彼の存在があったからこそ、沢村はメンタル面でも技術面でも大きく飛躍し、後に青道のエースナンバーを背負う怪物へと成長を遂げたのです。