海鮮丼が提供された際、小皿を使わずに醤油を丼全体へ豪快にかける行為は、一般的に「ぶっかけ」と呼ばれる。日常のランチシーンでは頻繁に見かける光景だが、日本料理の職人や食通の間では避けるべき食べ方として知られている。そこには単なる形式的なマナー論にとどまらない、科学的・味覚的な明確な3つの理由が存在する。
第一の理由は、ご飯への醤油の過剰浸透だ。丼の上から液体を注ぐと、重力によって醤油の約7割が刺身の表面を滑り落ち、下層の白ご飯や酢飯の底部に滞留してしまう。その結果、食事の後半になると米が醤油を吸いすぎて極端に塩辛くなり、米本来の甘みや炊き加減の良さが完全に失われてしまう。
第二の理由は、ネタごとの最適な味付けの崩壊である。海鮮丼にはマグロのような赤身、ヒラメやタイなどの白身、ウニやイクラ、ホタテといった多様な魚介が共存している。淡白な白身に必要な醤油の量はごくわずかである一方、脂の乗ったサーモンやトロには適度な塩分が必要となる。上から一律に醤油をかけてしまうと、すべての具材が同じ濃さの塩気でコーティングされ、素材ごとの繊細な風味の違いを感じ取れなくなる。
第三の理由は、ネタの温度と鮮度の劣化だ。刺身は切り立ての冷たさと適度な弾力が命である。室温の醤油が全体にかかることでネタの表面温度が不揃いに変化し、さらに塩分浸透圧によって魚の水分(ドリップ)が抜け出しやすくなり、食感が水っぽくなってしまうのだ。