「あんなに大きく見えたスーパームーンを最新のスマートフォンで撮影したのに、いざ写真を見返すと小さな点にしか見えなくて落胆した」という体験談は、X(旧Twitter)などのSNS上でも観測イベントのたびに大量に投稿される。
スマートフォンの広角カメラ(24mm〜28mm相当)は、人間の網膜とは異なり「脳の知覚補正」を一切通さない。レンズは物理的な視直径(約0.5度)を幾何学的数値のままイメージセンサーに焼き付ける。人間の視野角が約180度、明瞭にピントを合わせる中心視野が約40度であるのに対し、0.5度の月は視野のわずか80分の1程度に過ぎない。脳が「巨大だ」と強調したフィルターをカメラは共有してくれないため、記録された写真は客観的で残酷な現実を映し出すことになる。
この脳の錯視をその場で解除する実証実験として、昔から天文愛好家の間で知られている2つの手法がある。
- 腕伸ばし五円玉実験:腕をピンと前に伸ばし、五円玉の穴(直径5mm)から地平線の月を覗いてみる。巨大に見える月であっても、穴の中にすっぽりと収まり、周囲に十分な隙間が残る。このとき、頭上にある月でも全く同じ隙間になることが確認できる。
- 股のぞき効果:地平線の月に向かって前屈し、股の間から逆さまに月を見てみる。あるいは両手で筒を作って周囲の建物や地面を完全に視界から遮断する。視界から「地上の風景」という遠近の手がかりが消えた瞬間、脳の距離補正が解除され、月は一瞬にしていつもの小さなサイズに戻って見える。
観測現場でこの実験を行った人たちからは、「あんなに圧倒的だった月が、風景を隠した瞬間にスーッと縮んだように見えて鳥肌が立った」という声が相次ぐ。私たちの見ている世界がいかに脳の解釈に依存しているかを如実に物語る瞬間だ。