「子どもの頃からの体質だから諦めている」「年齢のせいで平衡感覚が衰えるのは仕方がない」と思い込んでいる人は少なくありません。しかし、平衡機能のメカニズムを紐解くと、乗り物酔いや非回転性のめまいは、適切なアプローチによって十分に克服・軽減できることが分かっています。
人間が空間内で自分の位置や動きを正しく把握するためには、主に以下の3つの情報源が脳幹や小脳に送られる必要があります。
- 前庭感覚(三半規管・耳石器):頭の回転運動や直線的な加速度、重力の向きをキャッチする内耳のセンサー
- 視覚情報:周囲の景色や動く物体、地平線の傾きを認識する目のセンサー
- 深部感覚(体性感覚):足の裏にかかる圧力、首や関節の筋肉の伸び縮みを感じる全身のセンサー
乗り物酔いや急な不快感は、医学的に「感覚矛盾説(センソリー・コンフリクト)」として説明されます。例えば、走行中の車内でスマートフォンを見ているとき、目からは「静止した画面」という情報が入りますが、三半規管からは「小刻みな揺れや加減速」という情報が届きます。脳内でこの2つの情報が衝突すると、脳は身体に異常事態が生じたと錯覚し、自律神経が暴走して吐き気や冷や汗、めまいを引き起こす仕組みです。
三半規管が弱い人の特徴として、幼少期からの運動不足、首や肩の慢性的な筋緊張(ストレートネックなどによる首回りの血流不全)、視線を素早く動かす経験の不足が挙げられます。脳には感覚のズレに対して徐々に慣れていく「前庭代償(ぜんていだいしょう)」という優れた適応能力が備わっており、正しい刺激を与え続ければ、大人になってからでも揺れに強い身体を作り上げることができます。