敬語の混同は、具体的にどのような場面で痛恨のミスとして表面化するのでしょうか。大手企業の採用担当者や現場の営業幹部が語るリアルな事例を追うと、言葉の取り違えが引き起こすシビアな現実が浮き彫りになります。
都内のIT企業で新卒採用の面接官を務める40代の人事担当者は、面接の終盤で起きたある出来事を次のように明かしています。
「最終面接直前の学生との雑談で、『前回の役員面接の感触はどうでしたか?』と聞いたところ、その学生は満面の笑みで『はい、〇〇役員もお目にかかれて光栄だと仰っていました』と答えたのです。本人は『光栄に思ってくれた』と言いたかったのでしょうが、相手を主語にして『お目にかかる』を使ったことで、言葉の上では役員が学生にへりくだったような奇妙な構図になってしまいました。緊張していたのは理解できますが、基礎的な敬語の主客すら把握できていないという評価を下さざるを得ませんでした」
また、大手広告代理店の法人営業担当者からも、商談メールでの失敗談が報告されています。他部署のキーマンを紹介してもらう依頼メールのなかで、「〇〇部長は先方の担当者様とお目にかかられましたでしょうか」と書いて送信してしまった事例です。送信後、上司から「社外の人間に向かって部長をへりくだらせているのか、それとも部長に敬語を使えていないのか、文意が破綻している」と即座に指導を受けたといいます。
チャットツールやSNSが業務の主流となり、短文での気軽なやり取りが増加した影響で、相手と自分の立場を意識した「敬意のベクトル」を見失うビジネスパーソンが顕著に増加しています。特に選考の場や高額な商談など、一瞬の振る舞いが合否や成否を分ける極限の現場において、こうした些細な言葉の歪みが信頼の喪失につながっているのです。