武士の給与体系を理解する上で、最も混同されやすいのが「家禄」「知行」「扶持米」「役料」の区別です。これらはすべて同じ「武士の収入」を指すように見えて、支給形態や性質が明確に分かれていました。
家禄とは、主君から家臣に対して「家」を単位として支給された世襲の基本給(俸禄)の総称です。武士が職務に就いていなくても、家系が断絶しない限り代々受け取ることが保証されていました。その支給形態によって、主に「知行取(ちぎょうどり)」と「蔵米取(くらまいどり)」の2つに分かれます。
ここで押さえておきたいのが家禄と知行の違いです。「知行」とは、領主から特定の土地(知行地)とそこに住む農民の支配権を委ねられ、自ら年貢を徴収する権利を指します。上級の旗本や藩の上級家臣(知行取り)は知行地を与えられますが、中下級の武士は土地を持たず、幕府や藩の米蔵から直接現物米を支給される「蔵米取」でした。この蔵米取の武士に対して、家族や従者の人数に応じて生活維持費として支給された米が家禄 扶持米(ふちまい)です。1人扶持は「成人男性1人が1日に消費する米(5合)」を基準として、年間約1石8斗(約270kg)に相当しました。
さらに見逃せないのが家禄と役料の違いです。家禄が「身分や家格に紐づく世襲の基本給」であるのに対し、「役料(やくりょう)」は町奉行や勘定奉行、目付といった特定の重職に就任した際に追加支給される「役職手当・業務執行経費」でした。江戸中期以降の「足高の制(たしだかのせい)」により、家禄の低い有能な武士でも役料を加算されることで高位の役職に登用される道が開かれました。家禄は身分保障、役料は実務報酬という二重構造が、江戸幕府の官僚機構を支えていたのです。