声優としての熊倉一雄の足跡を振り返ると、その振り幅の広さに圧倒される。海外ドラマ『名探偵ポワロ』で演じたデヴィッド・スーシェ扮するエルキュール・ポワロの吹き替えは、まさにハマリ役中のハマリ役だった。紳士的で几帳面、どこか皮肉屋でありながら憎めない名探偵のニュアンスを、見事な日本語に昇華させていた。
一方で、ディズニーアニメ『ピノキオ』の正直ジョンや、数々のCMナレーションで見せた怪演など、彼の声域と表現力は無限の引き出しを持っていた。どんな役に臨むときも、彼はキャラクターの「喉の構造」すら想像して声を組み立てていたという。『ゲゲゲの鬼太郎』の歌唱においても、単に歌うのではなく、「妖怪の世界を覗き見ている語り部」としてのキャラクターを喉元で作り上げていたのだ。