昭和後期から平成にかけて全国の峠道で囁かれたのが、首なしライダーの怪談である。ピアノ線トラップによって首を切断された暴走族の幽霊が、自らの首を探しながら時速数百キロで後続車を追い抜いていくという物語だ。
この噂は、モータリゼーションの加速と若者のスピードへの熱狂、そしてそれに伴う凄惨な事故の記憶が結びついて生まれたものと解釈される。興味深いことに、かつて峠道に限定されていたこの怪異は、いまやスマートモビリティが普及する都心部の裏路地や高速道路へと舞台を移している。乗り物がバイクから電動キックボードや黒塗りのセダンへと変化しても、首を失ったまま暴走を続ける焦燥感だけは、時代を越えてそのまま受け継がれているのだ。