「いくたまさん」の魅力は、厳格な神道儀礼だけにとどまらない。境内を奥へと進むと、落語ファンにとっての聖地が姿を現す。江戸時代、この神社の境内には数々の見世物小屋や寄席が立ち並び、上方落語の祖とされる米沢彦八が投げ銭を取って辻噺を披露した場所として知られている。
現在も境内には「米沢彦八の碑」が静かに建ち、毎年秋には上方落語協会による大感謝祭「彦八まつり」が華やかに開催される。噺家たちが屋台を並べ、境内に威勢のいい笑い声を響かせるその光景は、神様と人間が同じ目線で人生を楽しむ大阪らしい大衆文化の象徴だ。芸事の向上を願う役者やミュージシャンが途切れなく参拝に訪れるのも、この深い歴史的背景ゆえである。