天領酒造株式会社の歴史と経緯を紐解くと、その起源は江戸時代中期の延宝8年(1680年)にまで遡ります。近江商人であった初代・日野屋佐兵衛が、飛騨の雄大な自然と温かな人情に惚れ込んでこの地に定住。当初は物販業のかたわら手掛けた酒造りでしたが、明治以降に本格的な家業として確立され、代々の当主へと技術が受け継がれてきました。「天領」という名も、かつて飛騨の地が江戸幕府の直轄地(天領)として栄えた歴史的矜持に由来しています。
歴史ある蔵元が現在に至るまで地酒通を唸らせ続ける最大の理由は、「飛騨萩原の超軟水」と「自社精米の哲学」にあります。蔵の地下から汲み上げられる北アルプス系の伏流水は、極めてミネラル分が少なく柔らかな超軟水です。一般的に軟水仕込みは酵母の発酵が非常に穏やかに進むため、徹底した温度管理と高度な醸造技術が要求されます。天領酒造ではこの特性を逆手に取り、低温でじっくりと発酵させることで、シルクのように滑らかな舌触りと透明感あふれるキレを両立させています。
原料米への妥協なき姿勢も見逃せません。酒造好適米の代名詞である山田錦だけでなく、地元特産の「ひだほまれ」を主原料に採用。飛騨の気候風土で育まれた大粒で心白の美しいひだほまれを、蔵内の精米機で時間をかけて自社精米します。米の表面にある余分な脂質やタンパク質を均一に削ぎ落とすことで、雑味のない米本来のふくよかな甘みと旨みを最大限に引き出しています。自然の恩恵と愚直な職人技の融合こそが、今なお絶賛される本質的な理由です。