宗谷岬の突端に立つと、まず目を奪われるのが三角錐を象った日本最北端の地碑です。北極星の一稜をモチーフにしたこのモニュメントは、高さ4.53メートル。冷たい海風が吹き荒れる中、観光客が記念撮影のために列を作る姿は年中途絶えることがありません。そのすぐ傍らには、1808年に樺太へ渡り間宮海峡を発見した探検家・間宮林蔵立像が佇み、樺太(現サハリン)の方角を鋭い眼差しで見つめています。
旅行者の間で最大の関心事といえば、「宗谷岬からサハリンが見える日はいつなのか」という疑問です。宗谷海峡を挟んだサハリン島南部(西能登呂岬付近)までの直線距離は約43キロメートル。肉眼で異国の稜線を視認するには、湿度が極めて低く、大気中の水蒸気やチリが風で吹き払われ、水平線上に雲が立ち込めていないという複数の気象条件が重なる必要があります。稚内市観光協会の関係者や地元ネイチャーガイドの証言によると、年間を通じて完全に輪郭を捉えられる日は年間30〜50日程度に留まります。
狙い目となるのは、大気が澄み渡る秋口(9月中旬〜10月)の早朝、あるいは強い冬型の気圧配置が一時的に緩んだ放射冷却の朝です。真夏はオホーツク海特有の海霧(ガス)が発生しやすく、晴天であっても海上が白く煙って水平線が消失する現象が頻発します。「晴れているから見える」という単純な計算は通用せず、偏西風の強さや湿度計の数値まで考慮に入れた現地観測が求められます。