電源を入れると、数秒の沈黙のあとにヒーターが灯り、オレンジ色の柔らかな光がガラス管越しに浮かび上がる。かつて茶の間の主役だった真空管ラジオが、現代のリスナーたちを再び魅了してやまない。木製キャビネットの中で反響する丸みを帯びた中低音は、デジタル音源特有のエッジ立った解像度とは対極にある、包み込むような耳当たりの良さを持つ。
骨董市やリペア工房には、半世紀以上前の名機を求めて20代の若者から往年の愛好家までが足を運ぶ。ネットで誰もが同じ音源を瞬時に共有できる時代だからこそ、空気を震わせて鳴る不完全で肉声感のある響きが、至高の贅沢として受け止められている。深夜、薄暗い部屋で灯るフィラメントを見つめながら耳を傾ける時間は、過密な情報に晒された思考を静かに解き放ってくれる。