トレンデレンブルグ徴候を一言で定義するならば、「片脚起立時に、支持脚側の中臀筋が骨盤を水平に支えきれず、浮いている反対側(遊脚側)の骨盤が下制(落下)する現象」です。
臨床の初学者が最も混乱しやすいのが、「健側と患側のどちらが下がるのか」という点です。結論から整理すると、「立っている側(支持脚)が患側」であり、「落ちる側(遊脚側)が健側」となります。
なぜ支持脚ではない反対側が落ちるのでしょうか。その根本的な骨盤傾斜の理由は、股関節を中心とした第1種てこの原理(シーソーの力学)にあります。
人間が片脚で立つ際、身体の重心(作用点)は身体の中心、すなわち支持脚の股関節よりも内側(浮いている脚の側)に位置します。地球の重力は、この重心を下方向へと引っ張り続けます。つまり、何の力も働かなければ、骨盤は支えのない浮いている側(健側)へと傾いて落下するのが自然の物理法則です。
正常な身体であれば、支持脚の股関節外側にある中臀筋および小臀筋(力点)が強く収縮します。大転子から骨盤の腸骨翼を強固に引き寄せることで、内側に落ちようとする身体重心の重力に対抗し、骨盤を水平にキープします。しかし、支持脚側の中臀筋に筋力低下や麻痺、あるいは関節構造の破綻が生じていると、重力による内転モーメントに打ち勝つことができません。その結果、シーソーが傾くように支持脚側(患側)の筋不全によって反対側(健側)の骨盤がガクンと落ちるのです。