在宅医療や訪問看護の現場を取材すると、心臓肥大から心不全へと至る過程で最も障壁となるのは、「老化現象と思い込むことによる受診の遅れ」であることが浮き彫りになります。
都内の訪問看護ステーションで働くベテラン看護師は、次のように現場のリアルを語ります。
「ご家族から『最近、お父さんが散歩に行きたがらなくなった。足腰が弱ってきたみたいだ』と相談を受け、バイタルを測ってみると、酸素飽和度が低下し、足はパンパンにむくんでいたという例が本当に多いです。本人は息苦しさを『体がだるい』『億劫だ』と表現するため、周囲もフレイルや認知機能の低下を疑ってしまい、循環器の受診が数ヶ月単位で遅れてしまうのです」
SNSや医療系コミュニティ上でも、家族の後悔の声が散見されます。
「父が夜中に何度もトイレに起きたり、枕を高くして寝るようになったりしていたのに、単なる頻尿や好みの問題だと思い込んでいた。ある晩、横になると息が苦しいと言い出し、救急搬送されたときには重症心不全だった。もっと早く胸のレントゲンやエコーを受けさせていれば防げたはず」(50代・長男の手記より)
寝ているときに横になると肺への血液還流が増えて息苦しくなり、上体を起こすと呼吸が楽になる状態を起座呼吸(きざこきゅう)と呼びます。これは心不全の典型的な危険兆候です。「最近、座椅子やソファに座ったまま寝ている」「クッションを何重にも重ねて寝ている」といった行動の変化は、現場目線で見逃してはならない決定的な異変です。