作品の中盤、読者の嫌悪感が頂点に達するのが通称「橋のシーン」と呼ばれる大衝突の場面です。高校生になり、石田将也、西宮硝子、植野直花、佐原みよこ、永束友宏、真柴智らが集う橋の上で、将也はそれまで堰き止めていた各人の欺瞞を次々と告発していきます。
この直前、川井みきは教室で将也の「小学校時代のいじめの過去」を大声で暴露し、クラス全員に知らしめる暴挙に出ました。自分が好意を寄せる真柴智に対して、将也が「川井だって一緒に笑っていただろ」と指摘した瞬間、彼女の自我を守るための防衛本能が極限まで跳ね上がった結果です。
精神医学や心理学において、自己の都合の悪い事実を他人に転嫁する現象を「投影」や「否認」と呼びます。川井みきが窮地に陥った際に見せる「即座に泣く」という行動パターンは、計算高く周囲を操る意図だけでなく、自らを「傷つけられた被害者」の座に固定し、攻撃者である相手(将也)を絶対悪に仕立て上げる強力な無意識の防衛機制として機能しています。
橋の上で将也から「お前は自分がかわいいだけだ」と本質を突かれた際も、彼女は反省するどころか激昂し、自らの正当性を叫び続けました。他者の痛みに寄り添うポーズを取りながら、自分の自尊心が脅かされた瞬間に容赦なく他者を切り捨てる構造が、この橋のシーンに凝縮されています。