冷しゃぶのたれが美味しく仕上がっても、「肉の仕上がりがパサつく」「たれの味が薄まってしまう」という失敗の声をネット上で多く見かけます。その最大の原因は、長年信じ込まれてきた「茹でた豚肉を氷水にとる」という誤った調理習慣にあります。
食品科学の観点から見ると、豚肉に含まれる脂肪分(ラード)の融点はおよそ33℃〜46℃です。グラグラと沸騰した熱湯で急激に肉を加熱するとタンパク質が急収縮して水分が流出し、その直後に氷水へと投入すると、肉の表面に残った良質な脂分が一瞬で白く固まってロウのような硬い食感に変化してしまいます。さらに、冷水から引き上げる際に肉の表面に余計な水分が付着し、自慢のたれを大幅に薄めてしまう弊害も生じます。
プロの厨房で実践されている正解の手順は以下の通りです。
- 鍋の湯を沸騰させた後、弱火にして差し水(または少量の酒)を加え、75℃〜80℃前後の微沸騰状態(湯面が静かに揺れる程度)を保つ。
- 肉を1枚ずつ広げ入れ、色が変わるまで優しく泳がせるように火を通す(加熱時間は約20〜30秒)。
- 引き上げた肉は氷水につけず、常温の水を入れたボウルに数秒サッとくぐらせる程度にするか、バットに広げてうちわや自然放置で冷ます。
- キッチンペーパーで肉表面の水分を完全に拭き取ってから盛り付け、たれをかける。
この「人肌程度の温度感」をキープすることで、豚肉の脂肪は柔らかくとろける状態を維持し、たれの乳化成分や油分がしっかりと肉に吸着して専門店のクオリティに到達します。