日本の国家形成期を記した『古事記』や『日本書紀』を精読すると、異民族や大和の統治に従わない「荒ぶる神々」「穴神」といった記述が頻出する。和風民俗学のアプローチでは、これらの存在こそが昔話における「鬼」のルーツであると結論付けられている。
鉄器文明を持ち、異国の言葉や容姿を持っていた渡来系集団は、当時の大和の人々から見ればまさに異形の悪魔に見えたに違いない。桃という果実自体も、古代中国や日本の神道において「魔除けの霊力を持つ果実」として崇められており、『古事記』では伊邪那岐命(イザナギノミコト)が黄泉の国の追手から逃れる際に桃を投げつける場面が登場する。つまり、桃太郎が桃から生まれて鬼を退治するという構造は、宗教的呪術と古代政治のプロパガンダが見事にあわさった造形なのだ。