スタジオジブリ作品に登場する建造物は、一見するとファンタジーでありながら、確固たる構造的説得力を持っています。宮崎駿監督が描く建築デザインの根底には、「人間がどのように暮らし、どこで風を感じ、どの階段を使って昇り降りするか」という生活動線への異常なまでのこだわりが存在します。
本展覧会の解説・図録テキストを手がけた建築史家の藤森照信氏は、ジブリ建築の特異性を「看板建築のダイナミズム」や「土・木・銅板といった自然素材への偏愛」、そして「重力と浮力の絶妙なせめぎ合い」と分析しました。例えば『ハウルの動く城』に見られる、無秩序に増改築を繰り返したような外観や緻密な背景画は、住まい手の内面心理や人生の蓄積そのものが外壁へと表出した空間造形といえます。
アニメーションの背景は本来、キャラクターの引き立て役に過ぎないケースも少なくありません。しかしジブリ作品において、建物はドラマを生み出す「もう一人の主人公」です。藤森氏の鋭い批評眼が加わったことで、観客は単なるノスタルジーにとどまらず、日本の近代建築史や民俗学の文脈からジブリ世界を再解釈する知的体験を得ることとなりました。