本作の完成度を語る上で欠かせないのが、現場で繰り広げられたスリリングなセッションです。MANAMI BY KISHINの撮影秘話として関係者の間で有名なのは、篠山紀信がグラビア撮影特有の「決まったポージング」を一切求めなかったという点です。
一般的なグラビア撮影では、身体のラインを美しく見せるための角度や表情の指示が細かく出されます。しかし、篠山紀信の写真集における代表作群と同様に、本作の現場でも「橋本マナミという一人の女性が、その空間で呼吸し、感情を動かす瞬間」をひたすら追い続けるスタイルが徹底されました。
当時のインタビューや本人の回顧によると、篠山は彼女に対して「グラビアの顔をするな、そのまま生きろ」と言わんばかりの距離感でシャッターを切り続けたと伝えられています。温泉宿の畳の上、古びた日本家屋の陰影、湿り気を帯びた空気の中で引き出されたのは、作り込まれた笑顔ではなく、不遇の時代を生き抜いてきた表現者の剥き出しの覚悟でした。その化学反応こそが、写真一枚一枚に圧倒的な熱量とリアリティを宿らせたのです。