ネット上のQ&Aサイトや美容掲示板で頻繁に見かける「ヘアアイロンを使ったら縮毛矯正が取れてくせ毛に戻ってしまった」という体験談。実は、毛髪科学の観点から見ると、これは正確な表現ではありません。一度薬剤と熱によって結合が固定された縮毛矯正部分は、アイロンを通したからといって「元のくせ毛の形状に戻る」ことは構造上あり得ないからです。
では、なぜ多くの利用者が「元に戻った」「縮毛矯正が取れた」と錯覚してしまうのでしょうか。その真相は、くせ毛の復活ではなく、高熱によるタンパク変性とキューティクルの炭化破壊にあります。
髪の毛の80%以上はケラチンと呼ばれるタンパク質で構成されています。生卵をフライパンで熱すると固まるのと全く同じ現象(熱変性)が、髪の毛の内部でも発生します。縮毛矯正の薬剤によってキューティクルが開き、内部の水分や油分が著しく流出している髪は、いわば「重傷を負って包帯を巻いている状態」です。そこに180℃以上の高温ヘアアイロンを無防備に当ててしまうと、残されたタンパク質が急激に凝集・硬化し、内部がスカスカの空洞状態(ポーラス毛)へと変貌します。
その結果、髪は柔軟性を失ってバサバサに広がり、毛先がチリチリ・ジリジリとうねり始めます。これが美容業界で恐れられている「ビビリ毛」の正体です。本人は「縮毛矯正が取れてうねってきた」と感じていますが、実際には高熱によって髪が修復不可能なレベルまで破壊され、縮れてしまった現象に他なりません。一度ビビリ毛になってしまった髪は、どれほど高価なサロントリートメントを施しても元の滑らかな状態に蘇ることはなく、傷んだ部分を物理的に切り落とす以外に解決策がなくなってしまいます。