「自衛隊は過去に一度もクマを駆除したことがないのか?」といえば、歴史上ごく僅かな例外や、任務遂行中の正当防衛事例が存在します。
最も著名な歴史的事例は、1969年(昭和44年)の札幌オリンピック・バイアスロン競技場建設に伴うヒグマ駆除です。札幌市南区の真駒内演習場周辺でコース設営を行っていた陸上自衛隊第11師団(現・第11旅団)の部隊に対し、連日ヒグマが出没して隊員への威嚇を繰り返しました。この際、冬季五輪という国家プロジェクトの準備および隊員の安全確保のため、特例的に射撃部隊が編成され、ヒグマを射殺した記録が残されています。ただし、これは「自治体の要請による害獣駆除」ではなく、自衛隊施設内における隊員の生命防衛と任務遂行の枠組みで処理されたものです。
現在でも、北海道の矢臼別演習場や東千歳演習場、東北の王城寺原演習場など広大な敷地を持つ演習場内では、隊員が訓練中にクマと遭遇する事案が日常的に発生しています。
陸上自衛隊関係者の証言によると、演習場内での訓練時、実弾射撃訓練以外の場面では実弾を装填して携行することはなく、遭遇時はまず「大きな音を立てて追い払う」「車両内へ一時退避する」プロトコルが徹底されています。万が一、人命に直接の危険が迫った場合に限り、指揮官の指示のもとで実弾を用いた正当防衛(自衛隊法第90条)の措置が取られます。自衛隊といえども、野外活動時は民間の登山者と同様に熊撃退スプレーの携行や監視員の配置によって安全を確保しているのが実態です。