「手足口病に感染すると爪が根元から剥がれ落ちる」というネット上で拡散される言説は、都市伝説ではなく医学的に証明された厳然たる事実です。この現象は爪脱落症(爪甲脱落症:Onychomadesis)と呼ばれ、近年流行の主流株となっているコクサッキーウイルスA6型(CA6)への感染によって高頻度で引き起こされます。
爪が剥がれる根本原因は、爪を製造する工場の役割を担う「爪母(そうぼ)」へのウイルス侵入にあります。手足の指先に強い水疱性皮疹が集中すると、局所的な強烈な炎症反応が爪の根元にある爪母基質に波及します。その結果、爪を生成する角化細胞の増殖活性が数日から1週間ほど一時的に完全停止します。
手足口病が治癒し炎症が鎮静化すると、爪母は再び新しい爪の生成を開始します。しかし、成長がストップしていた期間の爪は形成されないため、爪甲に横方向の深い亀裂(Beau線条)が生じます。爪が根元から1日に約0.1ミリメートルずつ伸びていく過程で、その亀裂が爪の中央から先端へと移動し、感染からおよそ4〜8週間後に古い爪が浮き上がり、根元からパカパカと浮いて脱落するに至るわけです。
爪脱落症を初めて目撃した大人の多くは、病気そのものを忘れかけた頃に爪が剥離し始めるため、重篤な血液疾患や内臓の異常を疑いパニックに陥ります。しかし、爪の下にはすでに新しい薄い爪が再生され始めているため、無理に引っ張ったり剥がしたりせず、引っかからないよう医療用テープや絆創膏で保護して自然に押し出されるのを待つことが医学的に正しい対処法です。