多くの国民が長年抱いてきた「物価が上がれば年金も同じように増える」という期待は、現実の数字の前に脆くも崩れ去りつつある。公的年金制度に組み込まれたマクロ経済スライドは、物価や賃金が上昇した局面でも、現役世代の減少や平均余命の伸びに合わせて改定率をマイナス調整する仕組みだ。
例えば、物価が前年比で3.0%上昇した場合、本来なら年金給付額も3.0%引き上げられなければ購買力は維持できない。しかし、スライド調整率が仮に0.9%差し引かれると、実際の改定率は2.1%に抑え込まれる。名目上の金額は増えているように見えても、実質的な購買力は差し引き0.9%失われたことになる。デフレ期には発動が凍結・抑制されていたこのブレーキが、急激な物価上昇局面でフル稼働した結果、受給者の生活実感を直接苦しめる「実質目減り」の罠となって襲いかかっているのだ。