本作のルーツを探ると、朝鮮半島の口承文芸である韓国民話(昔話)に明確な起源を見出すことができます。韓国の伝統的な説話体系において、トラは「山の神(山君)」としての神聖さを帯びる一方で、民衆を脅かす横暴な権力者や腐敗した両班(貴族階級)の暗喩として描かれてきました。
これに対し、非力なうさぎは厳しい身分制度下で抑圧されていた庶民の象徴です。民話研究の専門家によるテキスト分析でも、うさぎが繰り出す計略は単なる悪知恵ではなく、理不尽な捕食者に対する生存のための抵抗権の行使として解釈されています。日本の民話『かちかち山』との構造的類似性も指摘されますが、『かちかち山』が「タヌキへの仇討ち」という義憤を起点とするのに対し、『うさぎととら』は純粋な「捕食者からの逃走と知力による逆転」に焦点が当てられている点に大きな特徴があります。