老舗和菓子店の店頭で棹(さお)菓子を見比べた際、小豆の黒羊羹よりも白羊羹のほうが2割から4割ほど高い価格設定になっている光景は珍しくありません。この価格差を生む第一の要因は、主原料である「白小豆」の収穫量が極端に少ないという農業構造的な現実にあります。
農林水産省の生産統計や小豆流通関係者のデータによれば、日本国内で生産される小豆のうち、白小豆が占める割合は全体のわずか0.5%〜1%未満に過ぎません。北海道や丹波、備中(岡山県)などのごく限られた地域で契約栽培されていますが、黒い小豆に比べて病虫害や天候不順に著しく弱く、栽培には莫大な手間とノウハウが求められます。単位面積あたりの収穫量(反収)も極めて低いため、原料の市場調達価格そのものが通常の高級小豆の2倍から3倍以上に跳ね上がる構造となっています。
さらに見逃せないのが、製餡と煉り上げ工程における職人の歩留まりと技術的負荷です。黒い羊羹であれば微小な火の加減の揺らぎが許容される場面でも、白羊羹では一切の妥協が許されません。糖分を煮詰める過程でわずかでも焦げが回れば、純白や淡い琥珀色の美しい色調は瞬時に濁り、台無しになります。純銅の釜を用い、焦げ付かせないよう一定のリズムで極限まで水分を飛ばす工程は、名店においても熟練工のみに許された領域です。原材料費の高さと極度の作業難度、この2つが重なり合うことで、白羊羹は必然的に高価格帯の極上菓子となります。