四股、すり足、てっぽう。大相撲の根幹をなす基礎鍛錬の価値を、親方は決して否定しない。むしろその反復こそが強靭な肉体と柔軟な関節を作る土台だと熟知している。だが、鳴戸部屋の真骨頂はその先にある。
稽古場に導入された最新のスポーツ科学。力士たちの心拍数や疲労度はリアルタイムでデータ化され、オーバートレーニングを防ぐための運動負荷調整がミリ単位で行われる。動画解析アプリを用いた立ち合いの角度チェック、重心移動のブレの可視化。かつては「親方の背中を見て盗め」とされた技術が、ここでは誰の目にも明らかな論理として提示される。
さらに特筆すべきは、独自に構築された力士育成システムと栄養管理のアプローチだ。ちゃんこ鍋をただ大量に食べる時代は終わった。PFCバランス(タンパク質・脂質・炭水化物)を綿密に計算し、一人ひとりの骨格や代謝に合わせた食事プログラムが組まれている。怪我に泣かされた現役時代の苦い経験があるからこそ、「壊れない身体づくり」に対する親方の執念は凄まじい。