実は、教科書でよく見かける「X字型」をしたくっきりとした染色体の姿は、細胞の生涯においてごく限られた瞬間にしか現れない。
通常、細胞が活発に活動している間、DNAは核の中で解けた毛糸のようにゆるやかに広がっている。この状態は「染色質(クロマチン)」と呼ばれる。この弛緩した状態があって初めて、酵素がDNAの配列を読み取り、生活に必要なタンパク質を合成できるのだ。
ところが分裂期に入ると、情勢は一変する。解けた糸のままでは複写したDNAが絡まり、断裂してしまう。そこで細胞は、特殊なタンパク質群を総動員し、DNAを数万分の一の長さにまで極限まで凝縮・折りたたむ。これが顕微鏡下で観察できる、いわゆる「染色体」だ。塩基性色素によく染まる性質から、19世紀末にこの名が与えられた。分裂が終わると、染色体は即座に解きほぐされ、元の糸状に戻る。このダイナミックな形態変化こそ、命をつなぐメカニズムの真髄である。