花王のシンボルである月のマークが誕生したのは、今から130年以上前の1890年(明治23年)のことです。創業者である花王石鹸創業者長瀬富郎は、日本橋の洋小間物商「長瀬商店」を営むなかで、当時の国内市場に流通していた石鹸の品質の低さに強い危機感を抱いていました。
明治初期、庶民の手に入る国産石鹸の多くは品質が粗悪で、肌荒れを起こすような代物ばかりでした。顔を洗えるような高品質な石鹸はすべて高価な輸入品であり、庶民には高嶺の花だったのです。長瀬富郎は「顔を洗うための、肌に優しく純度の高い国産石鹸を作りたい」と一念発起し、私財を投じて研究開発に没頭しました。「顔(かお)を洗う石鹸」から言葉を転じ、百花の王である牡丹を想起させる「花王(かおう)」と名付けられた高級化粧石鹸は、こうして世に送り出されました。
この記念すべき新製品に刻印されたのが、花王月のマークの由来となる三日月でした。当時、長瀬富郎が仕入れていた米国製の鉛筆や輸入品の商標に三日月が用いられていたことに着想を得たとされていますが、単なる模倣にとどまりませんでした。古来より東洋・西洋を問わず、月は「清純」「美」「輝き」の象徴とされてきました。肌を清らかに保ち、日々の生活を美しく整えるという石鹸の本質を表現するために、長瀬は満天の夜空に浮かぶ月をブランドの魂として据えたのです。