発表直後からSNS上で爆発的な話題となったのが、額縁に収められた「令和」の文字そのものの圧倒的な美しさでした。「止め」「払い」の完璧なバランス、力強さと優美さを兼ね備えた筆致に、ネット上では「神業のような美文字」「一体誰が書いたのか」と特定を急ぐ声が相次ぎました。
その文字を揮毫したのは、内閣府大臣官房人事課辞令専門官を務めていた書家の茂住菁邨(もずみ・せいそん、本名:茂住修身)氏です。辞令専門官とは、各省庁の認証官任命書や叙勲の受章者名などを筆で清書する国家公務員の役職であり、茂住氏は官職に就きながら日展の会友としても活躍する、現代書道界屈指の実力者でした。
平成改元時に「平成」の文字を書いたのは、当時総理府の辞令専門官だった河東純三(雅号:河東峰香)氏でした。茂住氏はこの平成の墨書を手本としながら、極秘裏に準備を進めていたのです。発表当日の朝、首相官邸内の完全隔離された一室に呼び出された茂住氏は、直前に伝えられた新元号を、手漉きの上質な和紙へ墨を擦って揮毫しました。失敗の許されない極限のプレッシャーの中、万が一の墨の滲みやかすれに備えて複数枚を書き上げ、その中から最も気品と気迫に満ちた1枚が選ばれ、乾かされて額縁に納められたのです。