「なぜ現金を全額渡さず、わざわざ3万円を天引きして積み立てるのか」。この背景には、大相撲という特殊な興行形態と、税務上の厳しい現実が深く関わっています。
大相撲の関取(十両以上の力士)は、日本相撲協会と専属契約を結ぶ個人事業主の性質を色濃く持ちます。懸賞金は給与ではなく、税法上の「事業所得」または一時的な報酬として計上されるため、懸賞金 確定申告 所得税の対象となります。人気力士ともなれば年間で数百本から千本以上の懸賞を獲得し、獲得総額は数千万円規模に跳ね上がります。日本の累進課税制度の下では、最高税率(所得税45%+住民税10%)が適用されるケースも珍しくありません。
過去の相撲界では、土俵上で手に入れた大金をその日のうちにタニマチや付け人への飲食代、後援者への返礼で使い果たし、翌年の確定申告時期になって数千万円に及ぶ納税通知書を前に途方に暮れる力士が後を絶ちませんでした。昭和44年(1969年)、国税庁からの指導と力士の経済的自立を目的として創設されたのが、この力士 納税準備金制度です。
相撲協会の元幹部や引退した親方の回顧録によると、力士名義の定期預金口座にプールされた納税準備金からは、毎年の確定申告時に所得税が直接納付されます。納税を終えてなお余剰となった資金は協会の口座に確実に保全され、力士が引退して髷(まげ)を落とす際、退職金や功労金に上乗せされる形で全額本人へ返還されます。「現役時代は金銭感覚が麻痺しがちだからこそ、協会の強制天引きがなければ引退後に路頭に迷っていた」と述懐する元三役力士の声は、この仕組みの実効性を如実に物語っています。