本作がジャンルの境界線を鮮やかに壊してみせた点も見逃せない。物語の主軸となるのは、不可解な失踪事件の謎を追う緊迫感あふれるサスペンス・ミステリーの骨格だ。しかし、事件の真相へと迫るにつれて、登場人物たちの狂おしい愛憎劇、すなわち濃厚なロマンス・ドラマとしての側面が輪郭を現してくる。
甘美な追憶と冷徹な現実が交錯するポリフォニックな構成は、観客の心拍数を巧みに狂わせていく。愛ゆえの狂気なのか、それとも自己防衛のための冷徹な計算なのか。誰が被害者で誰が加害者なのかという単純な二元論をあざ笑うかのように、プロットは二転三転し、観客を心地よい迷宮へと誘い込む。