タカラトミーが手掛けた大人向けリカちゃんの先駆けとして、一世を風靡したビジューシリーズ。このシリーズが公式アナウンスもないまま静かに幕を下ろした背景には、玩具流通の構造的ジレンマと製品ポジショニングの葛藤が存在していました。
発売当時、全国の量販店や百貨店の玩具売り場に並んだビジューシリーズの定価は、本体付きで税抜3,980円〜4,500円前後。通常のリカちゃん(実売2,000円〜3,000円台)と比較して明確に高価格帯でした。玩具売り場の現場バイヤーが直面したのは、「小さな子どもへのプレゼントとしては高価で手が出しにくく、キラキラしたドレスを好む女児層の需要と微妙にズレる」という流通在庫の課題でした。
一方で、購買力のある大人のコレクター層からは「リアルなトレンチコートやライダースを着こなすなら、ポーズが自由に取れる可動ボディにしてほしかった」という惜しむ声が噴出します。ビジューシリーズは一般玩具の安全基準(ST基準)を満たすため、あえて通常版と同じソフトビニール製の標準ボディを採用していました。その結果、「子ども向けとしては高価でシックすぎ、ハイエンドな大人向けドールとしてはポージング性能が物足りない」という挟み撃ちの状態に陥ってしまったのです。
さらに決定打となったのが、タカラトミーの事業ポートフォリオの再編です。大人コレクター向けには、公式通販サイト「タカラトミーモール」限定の高価格帯ライン「リカ スタイリッシュドールコレクション(当時の定価約10,000円〜14,000円)」へと客層を完全にシフト。店頭の若年〜ティーン層向けには、後に登場する17才設定の長身ドール「#Licca(ハッシュタグラカ)」へとリソースを集中させる戦略転換が図られました。このポジショニングの整理に伴い、一般流通用の大人向けモデルであったビジューシリーズは、自然消滅の形でその役割を終えることとなりました。