高さ35cmものトックブランシュを頭上に載せて、激しい熱気とスピード感が求められる厨房で本当に1日中料理を作り続けることができるのでしょうか。現場の調理師やホテル関係者の証言を丹念に追うと、実情は世間が抱くイメージとは大きく異なります。
帝国ホテルをはじめとするトップホテルの現場関係者への取材証言によると、「総料理長が日常的に35cmの帽子を被ってコンロの前で鍋を振ることはまずない」というのが偽らざる真実です。現代の厨房設備には強力な排気フードや天井吊り棚が低めに設計されており、35cmもの帽子を着用したまま機敏に動き回れば、帽子がフードや吊り棚に接触して脱落したり、コンロの炎に近づいて危険を伴うためです。
では、あの極端に高い帽子はいつ被るのか。実際には、厨房全体の巡回点検を行う際、VIP顧客を迎えるメインダイニングへ挨拶に出る際、あるいは結婚式や記念レセプションなどの公式行事でお客様の前に登壇する瞬間に、規定の長いトックブランシュを厳格に着用するケースが大多数を占めます。
また、現場のプロが何よりも厳しく叩き込まれるのがコック帽のかぶり方です。正しい着用手順は以下の鉄則に支えられています。
- 毛髪の完全格納:まず専用のインナーヘアネットを装着し、前髪、もみあげ、後頭部の襟足の毛髪を1本たりとも外に出さないよう完全にまとめ上げる。
- 水平のポジショニング:帽子の額当て部分を眉の真上(指1本分上)に水平に合わせる。斜めに傾けたり後頭部に倒して被ることは厳禁とされる。
- 頭頂部の形状維持:円筒形の上部が美しくピンと張った状態を保ち、天井部分の内側に熱気がこもらないよう、通気孔が設計された製品を正しくフィットさせる。
かつては過酷な熱気によって頭頂部が蒸れ、集中力を奪われることが料理人の職業病とされていました。しかし現在では、頭頂部に極薄の通気メッシュを採用した調理用衛生帽子が広く普及し、外見上のクラシックな美しさと現場での快適性が高い水準で両立されています。